被告人は無罪とならない限り前科が付き、社会生活上で様々な不利益を被ってしまいます。前科調書の記載は一生残り、刑事裁判において不利な資料となっていまいます。
前科と前歴
「前科」は法律用語ではありませんが、一般には有罪判決により刑が宣告された事実をいいます。前科には、法律上の前科と事実上の前科の2つがあります。
まず、法律上の前科とは、刑事事件で刑の宣告を受け、その刑が確定し、本籍のある地方自治体が管理する犯罪人名簿に記載されることをいいます。これにより、一定の職に就く資格や選挙権・被選挙権が制限されることがあります。
他方、事実上の前科とは、有罪判決が下された場合に、前科調書に記載されて検察庁に保存されることをいいます。日常用語でいうところの前科はこちらにあたります。
なお、前科と似た言葉に「前歴」というものがありますが、これは捜査機関により被疑者として捜査の対象となった事実をいいます。したがって、刑事事件で被疑者になった場合、前科が付かない場合でも前歴は付きます。
前科が付かないようにするためには
刑事事件において起訴されて裁判が開かれると、無罪判決が下されない限り前科は付いてしまいます。これは刑罰が罰金・科料の場合や執行猶予が付された場合、期日が1日のみの簡潔な即決裁判においても変わりありません。
我が国においては、起訴された被告人に対して裁判で無罪判決が下されたケースは、0.1%未満です。したがって、前科を付けたくない場合、示談を成立させるなどして、まずは不起訴処分の獲得を目指す必要があります。
前科はどのようにして記録されるのか
刑事事件で前科がついた場合、法律上の前科としては、本籍のある地方自治体が管理する犯罪人名簿に記載されます。この記録は一生残るわけではなく、執行猶予期間を問題なく過ごし、あるいは刑罰に処された後に刑期が満了して刑罰宣告の効力が失効した場合に消滅します。
刑罰の宣告の効力が失効するには、刑罰の執行を終わり、または執行の免除を得てから一定期間刑罰に処されない必要があります。具体的な期間は、罰金以下の軽い刑については5年、禁錮以上の重刑については10年間です。また、恩赦・特赦によっても刑罰宣告は失効します。
一方、前科調書に記載され検察庁に保存された事実上の前科は、本人が生存している限り保存され続けてしまいます。
なお、地方自治体の犯罪人名簿は公務員であっても自由に閲覧することができず、本人も見ることはできません。前科調書の照会についても、検察官・検察事務官に限定されており、一般の方は照会できません。
前科による社会生活上の不利益
前科が付いてしまうと、社会生活を送る上で様々な不利益を被ることになります。
法律上の前科が付いている場合、医師や弁護士といった国家資格や公務員等の様々な資格が剥奪・失職してしまいます。また、新たに資格を取得することも制限されます。
禁錮以上の刑に処された場合は、パスポートの返納命令が出て海外への渡航を制限されることもあります。新たにパスポートを発行する場合においても、様々な制限が課されます。仮にパスポートを用いて出国できたとしても、相手国によっては入国・永住等が認められないことがあります。
また、就職・転職活動において企業や機関が志望者の身辺調査を行い、親族に前科者がいることでマイナス評価を下す場合があることも否めません。
前科による裁判上の不利益
前科調書に記載されていることは、刑事裁判における量刑判断の際の資料となってしまいます。前科がある場合は、初犯の場合と比べて重い刑罰が下されてしまいます。
前科調書に記載された事実上の前科は、法律上の前科と異なり一生消えることはありません。したがって、失効した刑罰宣告も量刑判断の資料とされてしまいます。
もっとも、前科が10年以上前のものであり、かつ、その後更生して真面目に生活していた場合は、前科が量刑判断においてそれほど影響しないこともあります。
保存期間 | 不利益 | |
---|---|---|
法律上の前科 | 一定期間 | 職業・渡航等の制限 |
事実上の前科 | 一生残る | 量刑判断 |