事件は起訴されなければ刑事裁判にはなりません。たとえ逮捕・勾留されても、示談を成立させる等の弁護活動により不起訴処分の獲得を目指すことが重要です。
「起訴」とは何か
起訴とは、検察官が裁判所に対して、刑事裁判を行って被疑者(起訴後は被告人と呼ぶ)に刑罰を科すように求める手続きのことです。
起訴は、検察官が①被疑者の有罪の証明が可能で、かつ②被疑者に刑罰を科すべきと考えた場合になされます。起訴がなされることで初めて刑事裁判の手続きが始まるため、起訴はとても重大な処分です。
もっとも、強姦罪等の「親告罪」は例外的に上記要件だけでは起訴ができません。親告罪は被害者の告訴がなければ検察官が起訴できない罪のことです。つまり、親告罪においては、たとえ被疑者が罪を認め、証拠が十分にあったとしても、被害者の告訴なしに起訴されることはありません。
「不起訴」とは何か
不起訴とは、検察官が事件を起訴しないと決める処分のことです。したがって、不起訴処分になれば刑事裁判が行われることも、有罪判決が下されて前科が付くこともありません。
不起訴処分は、①捜査の結果、被疑者に対する犯罪の疑いが晴れた場合(嫌疑なし)、②捜査の結果、裁判において有罪の証明が困難であると判断された場合(嫌疑不十分)、③有罪の証明が可能であっても、犯行後の事情等に鑑みて検察官が不起訴とする場合(起訴猶予)になされます。
被疑者は今後の生活や人生のためにも、弁護人に依頼して不起訴処分を獲得することが重要です。
弁護人は、被疑者のアリバイや真犯人の存在の主張・立証(「嫌疑なし」処分を得る)、検察側の証拠不十分の主張(「嫌疑不十分」処分を得る)、被疑者と示談を成立させる(「起訴猶予」処分を得る)等の弁護活動により不起訴処分を獲得します。
起訴手続の流れ
公判請求(通常の起訴)の場合、まず、捜査を終えた検察官は「起訴状」を裁判所に提出します。そして、裁判所は起訴状の写しを被告人に郵送します。
なお、公判請求には通常の裁判を求めるものと、即決裁判(必ず執行猶予付きの判決が下される裁判)を求めるものがあります。
被告人が起訴前から既に逮捕・勾留されている場合は、起訴後も原則としてその状態は変わりません。つまり、保釈請求がない限り、裁判期日には勾留されている場所から裁判所へ出頭することになります。
逆に、被告人が勾留されない在宅事件の場合は、裁判期日には自宅から裁判所に出頭することになります。この場合、起訴状は自宅に郵送されることになるため、突然自宅に起訴状が届いて、自分が起訴されたことを知ることも多いようです。
逮捕・勾留と起訴
逮捕・勾留することと、事件を起訴することは全くの別問題です。逮捕・勾留されれば必ず起訴される訳でもなければ、逮捕・勾留されなかったからといって必ず不起訴になるわけでもありません。
例えば、痴漢等で逮捕された後、20日間の勾留が決定されたとしても、その間に示談が成立して不起訴になるケースもあります。他方で、交通事故等では、逮捕されなくとも、その後事件を忘れたころに裁判所から起訴状が届く場合もあります。
このように逮捕・勾留と起訴は別問題のため、たとえ逮捕・勾留されても最後まで諦めず不起訴処分の獲得を目指すことが大切ですし、逮捕・勾留されず在宅で事件が扱われる場合も放置せずに不起訴処分獲得に向けて有効な活動を行っていくことが重要です。
示談と起訴
比較的軽微な犯罪では、示談の成立により不起訴処分(起訴猶予)になる場合がよくあります。特に、親告罪においては、示談が成立し告訴が取り下げられれば、事件が起訴されることはありません。
もっとも、示談が成立したからといって、必ず不起訴になる訳ではありません。飲酒運転による死亡事故等の一定の重罪については、示談が成立したとしても事件は起訴されます。しかし、示談の成立は、裁判において刑の重さを決める際の被告人に有利な情状となります。
不起訴処分の獲得や裁判の有利な進行のためにも、最後まで諦めずに示談の獲得を目指すことが大切です。
簡易な起訴(略式手続)
公判請求とは別に、裁判所に出頭して法廷で裁判を受ける必要のない略式請求(簡易な起訴)があります。略式請求は、「簡易裁判所の管轄に属する」「100万円以下の罰金又は科料を科し得る」事件で、「被疑者に異議がない」場合に限って行われます。
略式請求と公判請求は、捜査を終えた検察官が起訴状を裁判所に提出する点では同じですが、被疑者の異議がないことを要件とする点で異なります。そのため、検察官は略式請求の際には、被疑者に異議がないことを確認し、同意書にサインを求め、起訴状とともにこれを裁判所に提出します。
裁判官は、検察官から受け取った記録をもとに、事件が有罪であることを確認し、罰金を納める旨の命令を出します。判決内容に不服がある場合、被告人または検察官は、略式命令の告知を受けた日から14日間以内に、正式の裁判を請求することができます。
このように略式手続による場合、通常の裁判と異なり、傍聴人のいる中で刑事裁判を受けるのを避けることができます。
通常は公判請求される事件でも、弁護活動により示談がまとまったことで略式請求となるケースもあります。そのためには、素直に事実を認めて反省し、弁護士を通じて被害弁償等の措置を講じていくことが大切です。
弁護人は、不起訴処分の獲得が困難な場合、公判手続・略式手続その他どの手続きによるのが最も被疑者の利益となるのかを検討し、実現します。